■ファレナ一の美少女たち

 小さな嬌声に、フェイレンは足を止めた。
 自分と同じ歳くらいの少女たちが固まり、頬を赤らめて何か囁き合っている。
 その熱っぽい視線の先には、リンドブルム傭兵旅団の剣王・リヒャルト、見習い竜馬騎兵のニック、そしてフェイレンの昔からの仲間であるロイの三人。
 誰もが認める美貌を持つ少年たちは周囲の強烈な勧めもあり、『美少年攻撃』なる協力技のコンビを組んでいた。

 「・・・なぁーにが『美少年』さっ!ロイってばすぐ調子に乗って・・・っ」
 フンッと鼻を鳴らして顔を背けながらも、自分の苛立ちの原因がロイ自身にないことはわかっている。
 それを認める素直さが、この少女にないだけだ。
 「ね、ね、あんたフェイレンって言ったよね?」
 むぅっと眉を寄せて立ち尽くしているフェイレンに、赤みかかった金髪の勝気そうな少女が声をかけた。
 「・・・そうだけど・・・?」
 元山賊であることへの負い目のせいか、フェイレンは見知らぬ人間への警戒心が強い。
 この本拠地内で彼女を馬鹿にする人間はいないのだが、これも長い間に染み付いてしまった性だろうか。
 つい、相手を探るように見てしまう。
 「アタシはルゥ。あのさ、あんたに頼みがあるんだっ」
 ルゥはフェイレンの視線に別段気を悪くした風もなく、開けっぴろげに切り出した。
 「頼みって・・・あたしに?」
 フェイレンは怪訝に聞き返す。
 自慢じゃないが・・・人の役に立つ様な能力は持ち合わせていない。
 そんな不安を読んだかのように、ルゥは明るく笑い飛ばす。
 「あははーっ!別に、あんたに裁縫や料理を頼んだりしないって!あんた不器用そうだもんねー!」
 「ぐっ・・・」
 それはそのとおりだが、本人を前にして言う事だろうか?
 「アタシさー、アレ探してんだよねー」
 フェイレンの様子にはお構いなしなのか、ルゥは続ける。
 「アレって何さ・・・?」
 抗議しようという気も削がれ、フェイレンは諦めたように尋ねた。
 「ホラ、あんたの仲間の王子様2号もやってたじゃん!『協力攻撃』ってヤツ!あれアタシもやってみたいんだよね。それであんた、アタシと組んでくれないかなーって」
 「はあ?」
 「アレってなんかカッコいいじゃん?目立つしさー!やろーよ、ね、ね、ね?」
 呆れるフェイレンの腕を引っ張り、ぐんぐんと振り回す。
 それはもう、お願いと言うより強制である。
 「わ、わわっ!わかったから!そんなに引っ張んないでよ!」
 「ホント!?やりーっ!!・・・でさーっその協力攻撃なんだけどー」
 「・・・・・」
 本当に、フェイレンのことはお構いナシらしい。
 「『美少女攻撃』ってのはどーかなー?って思ってるワケー」
 「はぁぁっ!?」
 「アタシの協力攻撃っていったら、コレしかないってカンジだよねーっ!それでさー・・・ってなんで逃げるのっ!!」
 自信満々に説明を始めようとしたルゥが、踵を返して逃げようとしたフェイレンを引き止める。
 「そんなの他のコ探してよ!あたしはヤだよ恥ずかしい!」
 フェイレンは顔を真っ赤にながら、 がっしりと腕を掴んだルゥを引き剥がそうとする。
 「えーっ?いいじゃん!あんたカワイイんだしさーっ」
 「ヤダってば!そんなのロ・・・・」
 言いかけて、フェイレンは口を噤む。
 あの少年のことだ。自分が『美少女攻撃』なんて協力技のコンビを組むなんて知ったら・・・・


 『おまえが『美少女攻撃』〜?ばっかじゃねぇの!?鏡見ろよ鏡っ!!』


 ・・・なーんて言いながら大笑いすることだろう。
 腹を抱えて笑いながら、本当に鏡を投げて寄越すかもしれない。
 「と、とにかくヤダってばっ!あたしはやらないっ!!」
 「えーっ?」
 ルゥはぷーっと頬を膨らませる。
 「あの王子様2号のコト気にしてるワケ?そんなのおかしいよ。だってアイツだって『美少年攻撃』やってるじゃん」
 「そ、そうだけど・・・」
 「あんた絶対カワイイもん。アタシの次くらいにはね!あんたのこと『美少女』って言ったって、誰も文句なんて言わないよ!」
 「・・・・・」
 『カワイイ』『美少女』という言葉で挟んで紛らわしているが、しっかりと『アタシが上』と主張している。
 「アイツ、ヤキモチ焼いてるだけじゃないの?あんたが他の男に『カワイイ』とか言われるのが面白くないから、ワザとあんたのこと馬鹿にするんだよ!」
 「そ・・・そうかなぁ・・・?」
 多少、フェイレンの心もグラついてきているようだ。
 ここぞとばかりに、ルゥは捲くし立てる。
 「そうだって!だからアイツのこと見返してやんなよ!アイツ、いっつもあの王子様の護衛のコのことばっか見てるけど、あんたがみんなに『美少女』って言われてるって知れば、絶対態度変わるよ!」
 「う・・・・」
 この本拠地に来て、誰もが優しくしてくれるが、ロイの態度は相変わらずである。
 あの護衛の少女・・・リオンが傍にいる分、見たくもないロイの呆けた顔やそわそわした態度を見るようになり、不満も募っている。
 今まで世話を焼こうとするのを鬱陶しがっていたロイだが、もし自分が他の男にちやほやされるようになったら・・・少しは妬いてくれるだろうか。
 「・・・そこまで言うなら・・・やろうかな・・・・」
 「ホント!?やったーっ!!」
 ぼそぼそとした承諾に、ルゥは拳を上げてガッツポーズを取る。
 「でも、あと一人くらい欲しいよねー。アタシらと同じくらいの美少女っていうとー・・・」
 「お嬢ちゃんたち、面白そうな話じゃないか」
 いきなり、二人の間にニフサーラが顔を突っ込んで来た。
 「わぁっ!?」
 「な、何っ!?」
 驚く二人に、ふふーんと澄ました顔でニフサーラは笑う。
 男性かのように髪を短くしているが、その笑顔は妙に艶っぽい。
 「美少女を探すんだろう?それなら、この城で一番の美少年に選んでもらうのが手っ取り早いと思うけどねぇ?」
 「この城で一番って・・・王子様のこと?」
 「・・・あー、そっかぁ!そーだよね!それイイよ!だって王子様なら、いっぱい美人見てるだろうしさ!」
 王宮で暮らし、審美眼も確かで、しかもこの城の主であるならどんな人間がいるかもわかっているはずである。
 「ふっふっふ。だろう?」
 悦に入りつつ、ニフサーラは唇の端を上げる。
 「まぁ、美少年に聞かなくても、あたしがメンバーに入ってあげてもいいんだけどねぇ?」
 「えーっ?なんの冗談?アタシたちが探しているのは『美”少女”』なんだけどぉ?30歳の美少女なんて聞いたことな」
 
「ぁあっ!!??」
 この世のモノと思われぬ形相でニフサーラが睨み付けた時、すでにそこには二人の少女の姿はなかった。




 脱兎の如き速さでルゥの襟首を捕まえ逃げ出したフェイレンは、柱の影に隠れて息を吐いた。
 「ルゥ!マズいよあんなコト言っちゃ!あの人アーメスの軍人だよ!?」
 「だってさー、図々しくない?あのトシで美少女なんてさぁ?」
 「それはあたしもそう思ったけど・・・」
 流石に『30歳』は言い過ぎだったんじゃないだろうか。
 思ったことをこうまでズバズバ言えれば、さぞかしキモチいいだろう。
 ・・・・長生きはできそうにないが。
 「二人とも、何してるの?」
 そこに、偶然にもこの城一番の美少年が通りかかる。
 「何か、悪戯でもして逃げてきた?」
 ほんわりと笑う王子に、一瞬見惚れたフェイレンは「やっぱりロイと王子は似ていても別人だなぁ」と思う。
 「ああっ王子様だっ!アタシたち、王子様探してたんだよー」
 「僕を?」
 緩く首を傾げる王子に、二人は件の協力攻撃について説明した。




 「・・・面白そうだね」
 話を聞き終えた王子は、にっこりと笑う。
 「でしょでしょー!でさ、王子様にあと一人、『美少女』を紹介して欲しいんだけど、誰かいないかなー?アタシたちと同じくらいのカワイイコ!!」
 「そうだね・・・・」
 王子は一度目を伏せて考え込み、ぱっと顔を上げる。
 「・・・ビッキーはどうかな?」
 「ビッキー?」
 「いつも大きな鏡の前にいる、長い黒髪のコだよ」
 言われて記憶を辿り、二人は王子の言う少女の顔を思い出す。
 「ああ、あのコ!」
 「いいんじゃない?大人しくてお淑やかっぽくて。アタシらとタイプの違う美少女ってカンジだよねー。流石王子さま!」
 褒められ、王子は『どういたしまして』という風に小さく頭を下げる。
 「王子様、ついでにさ、リーダーも決めてよ!」
 「リーダー?」
 聞き返す王子に、ルゥは大きく頷く。
 「技の中心になる人とか、ポーズを決めるとかいろいろあるでしょ?だから、リーダーがいた方がいいと思うんだよね。で、もちろん・・・・」
 言いながら、ルゥはにーっと笑う。
 「この中で一番の美少女がリーダーになるべきだと思うんだよねっ!!」
 「えええっ!!?」
 顔を赤くし、フェイレンは慌てる。
 「な、何言ってるのさっ!そんなの必要ないってば!」
 「そんなに驚くことないじゃん。・・・あー、自分が一番だと思ってる?」
 「そ、そ、そんなこと・・・・」
 ひっそりと自分が選ばれることを期待してしまったフェイレンは、否定しきれず言葉を濁す。
 「今この城って、スゴイ人いっぱいだよね?ファレナで一番スゴイ人たちばっかりでしょー?美人もいっぱい集まってるよね?つまり、ここで一番の美少女が、ファレナで一番の美少女ってワケ!!」
 「何その理屈・・・」
 確かに有能でもあり、見目麗しい人間が揃ってはいるが、話が飛躍していないだろうか?
 まさかルゥは、最初からコレを確かめたくて・・・?
 「ってコトで王子様!ファレナで一番の美少女を選んでよ!もちろん『美少女』なんだから、19歳までだよ!」
 「ファレナで一番・・・?」
 ワケがわからないといった顔で目を瞬かせる王子が、ルゥの言葉を反芻する。
 「身内贔屓とかナシにしてよね!公平に判断して!」
 「公平に・・・?」
 「護衛だからって、あのコを選ばないでよ!?」
 なぜか、乗り気でなかったはずのフェイレンが釘を刺す。
 「うーん・・・ファレナで一番の美少女・・・・か・・・・」
 頭をめぐらせ呟く王子を、二人は固唾を飲んで見守る。
 



 
「やっぱり、リムかなぁ?」




 長く悩んでいたワリには、あっさりと王子は言った。
 疑問系のようでいて、これしかないというような自信に満ちている。
 「ゴメンね。僕
リムより可愛い子に会ったことないから、よくわからないな」
 照れつつ、王子は二人に詫びる。
 「あ、王子。ここにいらっしゃったんですか。ルクレティアさんがお呼びですよ」
 王子に走り寄って来たリオンが、固まっているフェイレンとルゥを見て首を傾げる。
 「・・・どうかなさったんですか?」
 「ううん。なんでもないよ」
 おっとりと首を振りつつ、王子は二人に振り返る。
 「さっきの協力攻撃、ルセリナに言って登録しておいてもらうね。楽しみにしてるよ」
 それだけ言うと、王子はさっさとリオンを連れて行ってしまった。
 取り残され、呆然としていた二人はハッと我に返る。
 「ねぇ・・・『リム』って・・・お姫様のこと?」
 「・・・・それしかいないじゃん。あの王子様がそう呼ぶコ・・・・」
 ぷちっと、何かが切れたような音がした。
 「アタシ・・・・『この中で』って言ったよね?」
 「・・・言ったんじゃない?」
 どこか投げやりに、フェイレンは答える。
 「身内贔屓ナシで、公平にって言ったよね?」
 「身内贔屓ナシで、公平に見て、そう思ったんじゃない?」
 「・・・・・」
 ふるふるとルゥの肩が震える。
 「じゃあ何?アタシたちは10歳の子供にすら負けるってのっ!!?こーんな美少女目の前にして、それでも自分の妹の方がカワイイってワケぇっ!!?」
 「・・・・」
 負けたのは「アタシたち」と複数形なのに、「美少女」は単数形・・・。
 が、フェイレンには突っ込む気力はないらしい。
 「ムカつくぅーっ!!何よっ!!
シスコン!!ロリコンっ!!・・・・・・バカーっ!!!
 ・・・他に言葉が思いつかなかったらしい。
 気持ちがおさまらないのか、その場でぶんぶんと腕を振り舞わす。
 「もぅいいやめる!!アタシ『美少女攻撃』やらないっ!!」
 「えっ!?ちょっとルゥ・・・・」
 「あーもうムカつくっ!!信じらんないっ!!サイテーっ!!!」
 自分でどう思っているかは知らないが、地団駄踏んでキーキー叫ぶその姿は、どう見ても10歳児以下だ。
 「ちょ・・・やめるって・・・じゃあどうすんの?王子様、もう登録するって・・・・」
 「知らないっ!!あんたやりたいなら、他のコ誘ってよねっ!!」
 ルゥはそのまま、怒りに任せてずんずんと行ってしまった。
 「えー・・・・ちょっとぉ・・・・・」
 一方的に仲間入りさせられた挙句、取り残されたフェイレンは呆然とたたずむより他なかった。



 その後、隣室のよしみでとフェイレンに頼まれたノーマが快諾し、『美少女攻撃』は日の目を見ることが出来たようである。



 「・・・なるほど・・・。それでは、ご依頼というのは?」
 探偵事務所の中、リオンとオボロが向かい合って座っている。
 紅茶のカップを差し出してくれたフヨウに頭を下げ、リオンは思い切ったように口を開く。
 「・・・私が何かフェイレンさんの気に触るようなことをしていたなら、謝らなければならないと思うんです!でも・・・私には思い当たることがありません。ですから、フェイレンさんが何を怒っているのか、調べていただけないでしょうか・・・?」
 思い詰めたような、切実な様子で頭を下げるリオンに、オボロは唸るような溜息を吐く。
 「そうですねぇ・・・これは、リオンさんがそんなに気になさるようなことが原因ではないと・・・」
 その時、控えめに扉がノックされた。
 「あら、どなたでしょう?」
 フヨウが立ち上がり、扉を開くと、困惑した顔の王子がそこに立っていた。
 「僕も、相談に乗ってもらってもいいかな?」
 招き入れられた王子は、リオンの隣に座って言った。
 「僕、ルゥが何か怒るようなことをしてしまったみたいなんだ」
 「・・・王子も、ですか?」
 リオンと同じような顔で説明する王子に、オボロは小さく呟いた。


 「いやあ・・・・若いっていいですね・・・・」
 
 

 
2006.7.26

美少女攻撃誕生秘話。・・・かな?
 性格的に、ビッキー&ノーマは自分から「美少女攻撃」に立候補しないと思うんだ。
で、一番立候補しそうなのはルゥなんだが、実際にはメンバーに入ってない。
 ってなことをもよもよ考えてこーなった。

結局は、『王子はリムしか眼中にない』みたいな話だな。

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