■妹の特権
 
 「兄上〜っもう疲れたのじゃ〜すこし休むのじゃ〜」

 リムスレーアがそう言って足を止めたのは、東の離宮を出て、もうすぐ聖地ルナスに着くという時だった。
 煩わしい護衛も付かず、大好きな兄と旅が出来るとはしゃいでいたのは最初のうちだけで、王都を出て少し経つと、「足が痛い」と言っては座りこみ、「のどが渇いた」と言っては足を止めた。
 「だめですよぉ姫様。さっき休んだばかりじゃありませんか」
 リムスレーアの専属護衛・ミアキスがそう言ってたしなめたが、リムスレーアは頑としてそこを動かなかった。
 「いやじゃ!わらわはここで休むのじゃ。どうしても行くと言うなら、ミアキス、そなただけ行って参れ」
 「そんなことできるわけないじゃありませんかぁ」
 「姫様。ルナスはもうすぐです。もう少し、がんばりましょう?」
 リオンもなんとかリムスレーアをなだめようとしたが、「いやじゃっ!」と言ったまま、ついには座り込んでしまった。

 「やれやれ・・・」
 少し先を歩いていたゲオルグが、飽きれたように腕を組む。
 「こんな長い距離を歩いてくることなんてそうなかったから、無理もないよ」
 僕も言いながら苦笑する。
 けれど、本当にルナスまではあと少し。ここで休むよりは、ルナスまで行ってから休んだ方が楽だと思うんだけどな。
 「リム、僕がおぶってあげるよ。それならいいだろう?」
 「だめですよ、王子」
 僕の提案を、リオンがあっさり却下する。
 「聖地へ向かう旅も、儀式のうちの一つなんです。馬も乗り物も使わず、己の足で進むようにと言われたじゃないですか」
 「でも、リムはここまではちゃんと自分で歩いてきただろう?あと少しなんだし、誰にも内緒にしておけば・・・」
 幸い、ここにいるのは、僕と僕の護衛のリオン・儀式だ礼儀だということに多少融通の利くゲオルグだ。

 「あ、王子。あたしが陛下にお知らせしちゃいますぅ」
 「ミ、ミアキス・・・・・」
 手を挙げ、己の存在を主張するミアキスに、僕は思わず脱力する。
 「王子、ズルはいけませんよぉ?」
 「それはわかっているけど・・・」
 「それに、姫様だって、本当に疲れたから休みたいと言ってらっしゃるんじゃないと思うんですよぉ」
 ミアキスは言って、意味ありげに「うふふ」と笑った。
 「・・・なるほど。そういうワケか」
 「え?どういうワケなんですか?」
 ミアキスの含むところを理解したゲオルグと、わからないらしいリオン。

 「姫様は、できるだけゆぅっっくり、行きたいんですよ」
 「は、はぁ・・・そうなんですか?姫様?」
 「ミアキス!!」
 リムスレーアが顔を真っ赤にして立ち上がる。
 「勝手なことを申すな!いつわらわがそのようなことを・・・」
 「あらぁ?違うんですか?姫様。じゃあ、早く行きましょう〜」
 「おのれは・・・・っ」
 にこにこ笑いながら「さあ行きましょう、早く行きましょう」とばかりにその場で足踏みするミアキスに、リムスレーアは何か言いかけたが、結局はその言葉を飲み込んだ。
 「もうよい!行けばいいのじゃろう!!行けば!!」
 いいようにミアキスに乗せられ、リムスレーアはずんずんと歩き出した。

 「ああんっ!姫様、待ってくださいよぅ」
 置いていかれたミアキスが、慌てたように言いながらも、嬉しそうに追いかける。
 「さすが、ミアキス様ですね」
 リオンが僕と顔を見合わせて笑い、二人の後を追う。
 腹立ち紛れに歩を進めているのか、リムスレーアの歩き方はまるで大魔神のようで、一歩ごとにズシズシと音がしそうな勢いだ。
 リムスレーアが本当に結婚しちゃったら、こうしてミアキスにからかわれて照れたり怒ったりするのを見ることも、なくなってしまうのかもしれないな。
 そう思った僕は、先を歩くリムスレーアに手を伸ばし、その手を掴んだ。
 「兄上っ!?」
 驚いて振り返るリムスレーアに、僕は微笑む。
 「手を繋いで行こう。そうしたら、ルナスへの道もあっという間だから、がんばれるだろう?」
 リムスレーアは満面の笑みを返し、大きく頷いた。
 
 
 
 
 


お兄ちゃんとずっと一緒にいたい妹と、妹にはひたすら甘い兄。
それが書き(描き)たかっただけ。

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